『晶鶴図(しょうかくず)』制作にあたりて
古来より東洋にあって 鶴は瑞鳥・吉鳥・寿鶴と呼ばれ
慶祝を表し 幸福を運び来るシンボルであった
それは 白と赤と黒による清しき色彩と 気高いばかりの姿美と
雲井にまで響き渡るその声の潔さを人々が愛で
遠く万葉の時代より詩歌で讃え 心画で尊び
広く人間社会を潤してきたからであろう
自庭に暮らす丹頂鶴は 早くも三十有余年
日々にその命を見つめる時
めでたきを秘めながらも強く賢く生ききる その姿に
よし我は『晶鶴』という言葉を贈りたいと願う
晶は日が三つにして光り輝き 集える星々は那由他のきらめきを放つ
晶は水晶の晶にして 純粋無垢なる美しき心を永久に保ち
晶は結晶して 秩序正しく揺らぐことなく
晶はあらゆる塵悪を払い清め 不義不正を遠ざけ
晶は八風にも侵されず 三災七難をも自ら覚知して凌ぎ宝寿を全うす
今時 世相大変動の秋(とき)にあたり
晶鶴の白舞 舞に舞って
その風 遍く辺土大地に吹き渡らむことを
*八風=利(うるおい)・衰(おとろえ)・破(やぶれ)・誉(ほまれ)
称(たたえ)・誹(そしり)・苦(くるしみ)・楽(たのしみ)
*三災=穀貴(飢饉)・兵革(戦乱)・疫病(伝染病)
*七難=非時風雨(時あらぬ暴風雨)・人衆疾疫(疫病に襲われる)・
他国侵逼(他国に侵入される)・自界叛逆(身内同士が争う)等々
令和二年(2020)日展出品作