『万葉集巻第九より
旅人の宿りせむ野に霜降らばわが子羽ぐくめ天の鶴群』
千三百年前 遣唐使の母は詠いました
我が子が遠く大陸へ旅をするとき
もし野宿をして霜でも降ったなら
天を飛ぶ鶴たちよ どうか舞い降りていって
そのあたたかい羽根で包んでやっておくれ
天平五年(733年)中国・唐の都に向かう遣唐使一行の船が難波津を出港しました。この頃、日本からは、唐の文化や制度を取り入れるために優秀な若者が公式の使節団として派遣されたのです。
それは危険と隣り合わせの命がけの旅であり、この歌は子思う母親の深い愛情と祈りが込められた美しい大和歌です。
当時は、貴族のみでなく広く庶民まで詩歌を詠んでおり、この歌からは、古代日本における高尚な歌詠み文化の証を感じることができます。
本図は、母の願いが届き、寒月の大空より白鶴が今まさに舞い降りる一瞬を描いております。
平成25年(2013)日展出品作