『唐詩選より 黄鶴春舞」制作にあたりて
古代中国における黄鶴伝設は、李白の「故人西の方黄鶴楼を辞し」にはじまる有名な漢詩にも登場します。私が十数年前にこの地を取材に訪れた際、突然現れた日本語の上手な方にこの伝説の詳しいご説明をいただいたのですが、その方がいつの間にかいなくなったことを今も不思議に思っております。
その昔、貧しい茶店の辛おじいさんが、更に貧しい人々に施しをしていたところ、仙人が「今どきそんな人がいるとは。」といぶかしく思い、その目で確かめようと貧しい身なりをして地上に降りてきました。しばらく世話になると本当にその通りの人だったので、「おじいさん、私はこれから旅に出ます。」と言い、お礼にそこにあったみかんの皮で壁に鶴の絵を描き何処へと立ち去りました。翌朝、仙人に言われた通りおじいさんが絵の前で手を打つと、不思議なことに壁から鶴が出てきて舞い踊りました。みかんで描かれたので黄色に輝く美しい鶴です。噂を聞いた多くの人々が押し寄せ、辛おじいさんはたちまち村一番の長者となりました。後年、おじいさんは仙人と黄鶴に感謝を込めて雄大な楼閣を建てたのですが、それは今も武漢の地に「黄鶴楼」として残り、一日に数千の人々が訪れているのです。
古代の中国には、このような世を治め人心を清らかに導く教えは満ち溢れております。遠き日、中国で生まれた精神文化が今も美しく咲き続けている地球上で唯一の国、日本が「大切な国」であることを少しでもお伝え申し上げたく思います。
日本に中国にそして世界中に黄鶴の舞風が吹き渡り、平安で美しい世となりますよう願いつつ、本年の日展に出品させていただきます。 令和6年日展出品作