
『錦秋に歩む』制作にあたりて
赫赫(あかあか)と きらめき燃ゆるこの錦秋
秋は楽しき収穫の季(とき)
そのよろこびは祭りとなって
笛や太鼓は天地に響き 歌い唄われ舞い踊り
五穀豊穣 豊年を 感謝ともども御神に捧げ 祖霊に捧ぐ
秋は嬉しき結実の季
青々と萌え出ずる春過ぎて 繁茂勇まし朱夏の日過ぎて
早や澄みゆける秋風渡る
秋は楽しき詩情の季
五彩・七彩・綾錦 有終の美ふりそそぎ
人は皆 愁思あふれて詩人となり 月光のさやけきに 無常を想う
秋はまた我が人生と重なりて
インド古学は四住期のうち林住期を教える
そは 生まれきて働き働き 働き終えてそのよろこびにひたる日は
今ひとたび 内なる己心を見つめつつ 深きに至れと雄々しく諭す
秋はまた我が人生と重なりて
中国古典は風水四神を教える
その方位は西 守護神は白虎 季は収穫
色は白にしてこれを白秋と呼び 心清らに逞しくあれと励ます
秋はまた古代日本にあって 豊葦原之千秋長五百秋之瑞穂国と讃え
この国の美称を 美しき大和言葉で表わせり
そは風情あふるる大和絵・墨蹟・万葉歌にのせて 花鳥風月文化を大成す
秋はまた 木の葉散るとき自らの 命すべてを親木(おやぎ)に返し
返し終えるや春来る間
大地に舞い降り滋養となって 若き命を芽吹かせり
今 錦秋のさなか 二羽の白鶴 歩み来て
舞い来るひと葉に 越し方こもごも顧みつつ また歩む
その行く手には 収穫も豊けき 玄冬の日々が待っていよう
気高く強く確かな姿美を残しつつ
ゆったり 凛と 歩み行く
令和四年(2022)日展出品作